珍味昔話|第二章

2-2|現代にも通用しそうな鎌倉時代の珍味

「玄米めし」「一汁一菜」という食事スタイルでスタートした鎌倉武士も、時代がさがって平和が続くと、だいたいあやしくなってくる。鎌倉幕府の初代将軍である源頼朝の目の黒い内はともかくその子の頼家や実朝の時代になると、太平の世にとけこみ、武士も公家の生活に近づいて、だいぶぜいたくな味も覚えるようになった。

会社や商店経営などの場合もそうであるが、一般に、三代目くらいになると、創業者の苦労は遠いむかし話になってしまう例が少なくない先祖が汗水たらして残した財産を、湯水のように使ってもの狂いしたりする。そのあげくが、「売家と唐様で書く三代目」である。このような子孫を持ったら、創業者も浮かばれないが、しかし、金持ちの遊蕩が、しばしば酒色や盛り場にまつわるユニークな文化を残してくれるので、文化史的にみれば″三代目″もいちがいに非難はできない。

しゃれた遊里文学は江戸文化の華であり、“江戸の食い倒れ”といわれた文化文政(1804-1829)のけんらんごうかな江戸料理(日本料理のこと)を後世に残したのも、江戸のプレーボーイたちの功績である。

さて、問題は鎌倉時代の珍味。
いくら″三代目″のお大尽さまといっても、時代が古い。ぜいたくできるのは、ごくかぎられた上層階級である。江戸の食い倒れには及びもしないが、鎌倉時代には、武骨な時代にふさわしい「珍味」があった。
その種類を『庭訓往来』(室町時代初期の成立説が有力で初心者向きの手本に編集された書簡文集。
この中には、鎌倉時代の食生活を伝えることばが多く、貴重な資料である)記載の中からピックアップすると、以下のようになる。

海月
塩蔵の発酵食品で塩辛にしたもの。
のしあわび
あわびは古くから不老不死の効果があると信じられ、肉身をうまく長くはぎ、これを乾燥させたものを打ち伸ばして用いた。一種の保存食で、まさに珍味。今日のスルメのように裂いて食う。「のし」は「伸ばしひろげる」の意味で、″延年″につながり、出陣の酒盛りの肴としては欠かせない。後には、祝いごとの贈りものに添えるかざりものになっていく。
まるあわび
まるごと日干しにしたもので、いわゆる白干しあわびのこと。
むしあわび
蒸したあわびである。
干し鰹
当時、珍重された削りものの一種として用いられた。「削りもの」というのは、魚肉などを固く干したもので、小刀で削って食う。
干しだこ
これも「削りもの」の一種で、作り方と食べ方は「干し鰹」と同じ。
干し鯛
上に同じ。
干しうなぎ
上に同じ。
干し鮫
同じく肉を干し固めたものであるが、鮫の場合は「魚の身」と呼ぶ場合もあった。
煎海鼠
なまこの皮を除いてからゆでて干したもので、これも同じように削りながら食べる。酒の肴として珍味である。
鮪の黒作り
「鮪」はまぐろの成魚であるが、その内臓を原料にした塩辛のこと。
あゆの白干し
塩などをふらずに、あゆをそのまま素干しにしたもの。
ますの楚割
「楚割」というのは、魚の肉を乾かして細長く裂いたもの。ここでは、ますの乾燥肉から作っている。
さけの楚割
干しさけの肉を細く裂く。
さけの塩引き
さけの塩漬けのことで、現在のものと同じである。
あじの鮨
ここでいう「鮨」は″なれ鮨″のことで、いわゆる”握り鮨゛ではない。
かに味噌
かにを丸ごと搗きつぶして作った塩辛状のもので、佐賀県の「がに漬け」に近い。
豚焼皮
いのししの脂肪の残った皮肉を焼いたもの。
くまの掌
「くまの掌」は、古くから中国の食通にもてはやされた珍味で、中国料理の「八珍」にも入っている。鎌倉時代の粋人も、これを美味として珍重したのだろう。
たぬきの沢渡
たぬきの脚を材料にした料理というが、くわしいことは不明。
さるの木取
これも、さるの脚を材料にした料理というだけで詳細はわからない。
鳥醤
鳥の塩辛のこと。主として小鳥の内臓で作る。とくに山間部では、鳥の内臓を塩蔵熟成させて、保存珍味とする場合が多いが、岐阜県の「つぐみうるか」に鎌倉珍味の面影が残っている。
このわた
海鼠の腸を抜きとって塩漬けにした珍味中の雄で、古くは不老長寿の薬餌にされたもの。
うるか
あゆの腸や卵巣を用いた塩辛で、そのこなれた苦味を珍重する。
腸煎
魚の肝などに味をつけながら、よく煎りあわせてつくる。
干しもの
「干しもの」には「干し鳥」や「干しうさぎ」「干ししか」「干しいるか」

などがあった。
鎌倉時代の「海産物」の主要産地をあげてみると、「塩引き」は越後、「あわび」は隠岐、「さば」は周防、「ふな」は近江、「こい」は掟川、「いわし」は松浦、「昆布」と「さけ」は蝦夷地である。

金城軒|珍味・おつまみの製造・卸・通販|愛知県名古屋市

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